2009/10/01

読書のしおり -その9 『 縄文の思考 』(3/5)

独りよがりの読書感想 -その9 『 縄文の思考 』(3/5)  小林達雄 ちくま新書 735円

さまざまな特産品の中でもヒスイはとりわけ特別な存在である。第一に、その原産地は、他に類似品はあるものの糸魚川市の山中一か所に限られているにもかかわらず、縄文列島全域に広くいきわたっている。 第二に、これまでいろいろな石器材料として利用されてきた石器材料とはまるっきり異質の特色、すなわち、他の同類の滑石などに比べて歯が立たないほどの圧倒的硬さを誇る。 入手が困難で、かつ加工が容易ではない。 いかにも玉類の材料としては、きわめて不利な代物であるにもかかわらずヒスイに執着を示してやまないところに縄文人のこだわりがある。 よほどの事情があってのこととしなければならない。 確かにヒスイの色合い、輝きは魅力にあふれている。 しかし、どれほど感性に訴えたとしても、常識的には、これほど物理的に不利な条件を簡単に払拭することは到底できない相談である。 それを超えさせたものとはいったい何であろうか。 とにかくそれほどの悪条件を備えたヒスイを、縄文人は結局モノにして、見事な球(ぎょく)に仕上げたのである。 具体的な理由をはっきりと知ることはできないけれども、縄文人が辿ってきた長い歴史、経験の蓄積から醸成された総合力の意外な表れとしか言いようがない。 ヒスイについては、著者は、以上の観点に加えて、以下の3点を指摘している。 その1は、不利な条件や障害があると、諦めてしまうかといえば、そうではなく、かえって闘争心をかき立てられるのが人間であり、人間縄文人の精神にもヒスイに直面した時にそのような闘争心が働いたと見ることができる。 縄文中期のことである。 その2として、縄文後期から晩期に勾玉(まがたま)が出現したことである。 勾玉は、それまでにない全く新しく独特の形状であり、縄文人が独自に発明した誇るべきカタチであり、他には世界のどこを探してもない。 勾玉は弥生時代以降、古墳時代にも大いに発達し、歴史時代に入ると、三種の神器の一つとなり国体の象徴ともなった。 その3は、ヒスイの穿孔技術に関する縄文人の画期的な新技術の発明についてである。 その発明とは、石の錐(きり)を用いた力ずくの方法では歯が立たないと見るや、乾燥させた中空の篠竹などの中空の錐を用意し、ヒスイより硬い石英の粉末を研磨剤として活用することで、穿孔可能となったのである。 この方法は、柔い中空錐の回転運動と対象物への研磨剤による干渉という二つの作用の組み合わせであり、縄文人独自の発明としての漆技術と並んで次元の高い、画期的な技術として評価されるべきものである。(つづく)

’09.10.1
   Yukikaze

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